目次
「また会議でやってしまった……」
「正論を言っているはずなのに、なぜか現場が動いてくれない」
「良かれと思って提案した企画が、上司の一言で白紙になった」
中堅社員ともなれば、誰もが一度はこうした「見えない壁」にぶつかったことがあるはずです。実務スキルを磨き、誰よりも働いている自負がある。それなのに、案件がスムーズに進まない。その原因の多くは、実はスキルの不足ではなく、「根回し」という名の事前準備が足りていないことにあります。
私自身、これまで数々のプロジェクトを経験する中で、「根回しが何より大切で、そして一番大変だ」ということを、嫌というほど思い知らされてきました。管理職となれば、なおさらです。
正直、「なんでこんなことまでしなきゃいけないの?」と投げ出したくなった日も一度や二度ではありません。
しかし、多くの経験をしてきた私が断言します。「根回し」を制する者は、仕事を制します。
特に、時間に制約のあるワーキングマザーや、責任が重くなる管理職一歩前の中堅社員にとって、根回しは「ずるい手法」ではなく、自分とチームを守るための「最強の生存戦略」なのです。
今回は、ネガティブに捉えられがちな「根回し」の本質を解き明かし、明日から使える具体的なテクニックを解説します。
そもそも「根回し」の本当の意味を知っていますか?
「根回し」という言葉を聞いて、あなたはどんなイメージを持ちますか?
「裏工作」「密談」「公平性に欠ける」……。もしそんなネガティブなイメージを持っているなら、まずはその定義をアップデートしましょう。
語源から紐解く「根回し」の本質
根回しの語源は、樹木を移植する際の園芸技術にあります。
大きな木を別の場所に植え替えるとき、いきなり掘り起こして移動させても、木は枯れてしまいます。そのため、数ヶ月から1年前から周囲の大きな根を切り、細かい根を発生させておく準備作業を「根回し」と呼びます。
ビジネスにおける根回しも、これと全く同じです。
「新しい施策(移植)」という変化に対して、組織や人が拒絶反応を起こさないよう、あらかじめ周囲の理解を深め、栄養(納得感)を蓄えておくプロセス。 これが根回しの本質です。
- 引用元:農林水産省 公募用語解説
- 内容: 「根回し」が樹木を移植する際の重要なステップであることを解説しています。
根回しをポジティブに言い換えるなら
もし「根回し」という言葉に抵抗があるなら、今日からこう言い換えてみてください。
- 「事前相談」:相手の専門性を敬い、意見を仰ぐ謙虚な姿勢。
- 「合意形成の手順」:組織を最短距離で動かすための標準手順。
- 「心理的安全性の確保」:会議の場で誰にも恥をかかせない、究極の配慮。
根回しとは、相手を操作することではありません。**「相手の立場に立ち、相手が納得して動ける環境を整えること」**なのです。
【比較表】根回しを「する人」と「しない人」の決定的な差
なぜ根回しが必要なのか。その理由は、以下の比較表を見れば一目瞭然です。「根回しをしないこと」は「近道に見えて、実は一番の遠回り」なのです。
| 比較項目 | 根回しを徹底する人 | 根回しを軽視する人 |
| 会議の目的 | 「確認と承認」の場。 | 「議論と対立」の場。 |
| トラブル対応 | 事前に想定済み。味方が助けてくれる。 | その場で紛糾。孤立無援になる。 |
| 実行スピード | 準備に時間はかかるが、決定後は最速。 | 決定までが早く見えるが、後で覆る。 |
| 周囲の評価 | 「調整力がある」「頼りになる」 | 「独断専行」「空気が読めない」 |
| 精神的ストレス | 予測可能性が高いため、低い。 | 常に反対勢力に怯え、高い。 |
| 残業時間 | 手戻りが少ないため、削減できる。 | 差し戻しや説明のやり直しで増大。 |
根回しが【苦手な人】が陥る3つの罠
「根回しが大切だと分かっていても、どうしても苦手……」という人は、以下の3つの落とし穴にはまっていないかチェックしてみてください。
「正論」がすべてだと思っている
「この企画は数字的に正しい。だから通るはずだ」という考え方は、ビジネスにおいては半分正解で半分間違いです。人間は感情の生き物です。どんなに正しい意見でも、「いきなり言われてメンツを潰された」「相談がなかった」という感情的な理由だけで反対に回ることがあります。
タイミングを逸している
相手が締め切り直前でピリピリしている時や、ランチ直前の空腹時に重要な話をしていませんか? 根回しにおいて「いつ言うか」は「何を言うか」と同じくらい重要です。
キーマンを見誤っている
決定権を持っているのは部長でも、実はその部長に最も影響力を持っているのは「現場のベテラン社員」だった、というケースは多々あります。組織図には載っていない「真のインフルエンサー」を見つける目が必要です。

根回しが【得意な人】が密かにやっている3つの習慣
根回しが上手い人は、決して「口が上手い」わけではありません。得意な人は共通して、組織を動かすための**「見えない資産」**を積み上げています。
「感情の貯金」を欠かさない
根回しが得意な人は、案件がない時こそ動いています。「お疲れ様です、最近あちらのプロジェクトどうですか?」といった何気ない雑談を通じて、相手との信頼関係=「感情の貯金」を貯めています。
- なぜこれが大事か: 人は、知らない人からの正論には反発しますが、「いつも気にかけてくれる人」の頼みは、多少無理があっても聞こうとするからです。
「相手のKPI(評価指標)」を把握している
得意な人は、自分の要望を伝える前に、相手の「今、何を達成すれば上司に認められるか」という思いを把握しています。
- 攻略のコツ: 「この案を通すことは、あなたの部署の今期の目標達成にも繋がりますよ」という文脈で話を共有します。相手にとって「協力することが自分のメリットになる」状態を作るのが上手いのです。
「NO」と言いそうな人を一番最初に攻略する
多くの人がやりがちな失敗は、賛成してくれそうな人から順に回ることです。しかし、プロは**「最も強く反対しそうな人」**に最初に会いに行きます。
- プロの思考: 「まだ案の段階ですが、〇〇さんのご懸念を先に伺っておきたくて。どう修正すればご納得いただけますか?」と先に懐に飛び込みます。勇気はいります!でも、これにより、反対勢力を「一緒に案を磨くアドバイザー」に変えてしまうのです。
【若手向け】可愛がられながら進める「教えを請う」根回し
若手社員が根回しをする際のキーワードは**「謙虚さ」と「スピード」**です。
若手の根回し相手
- 直属の上司
- 隣の部署の先輩(実務で連携する人)
若手の根回し術
若手の場合、「決定事項を伝える」のではなく**「相談して一緒に作ってもらう」**というスタンスが最強です。
- 言い方のコツ:「〇〇さんのアドバイスをいただければと思いまして、まだ叩き台の段階なのですが、見ていただけますか?」「今の私の視点だと抜け漏れがありそうで……現場に詳しい〇〇さんの意見を先に伺っておきたいんです」
このように「あなたの知見が必要なんです」というメッセージを送ることで、相手は「協力者」になってくれます。後から反対されるリスクをゼロにできるだけでなく、先輩や上司の顔を立てることにも繋がります。
【中堅社員向け】利害を調整する「プロ」の根回し
中堅社員以上になると、役割は「相談」から**「調整」**へとシフトします。部署間の対立を未然に防ぎ、全体の利益を最大化する視点が求められます。
中堅の根回し相手
- 他部署のキーマン(課長・マネージャー級)
- 意思決定に影響力を持つベテラン層
- 自分の部下や後輩(チームの納得感のため)
中堅の根回し術
中堅社員の根回しは、**「情報の等価交換」と「Win-Winの提示」**です。
- 言い方のコツ:「今回の企画、A部署にはメリットが大きいのですが、B部署さんのリソースを圧迫してしまう懸念があります。そこをどうカバーするか、今のうちにすり合わせさせてください」「部長には私からこう説明しておきますので、〇〇さんのチームとしてはこの進め方で問題ないでしょうか?」
中堅は「板挟み」になりやすい立場ですが、それを逆手に取り「両方の事情を理解している調整役」として振る舞うことで、信頼を勝ち取ることができます。

「組織図には載っていないキーマン」を見極める
根回しを成功させる最大の鍵は「誰に話を通すか」です。最終決定権のある人が、なかなか話せる人でない場合は、別のキーマンを見極めます。実は、役職が高い人だけではない場合もあります。
組織図の裏にある「真のインフルエンサー」
組織には、目に見えない「権力構造」が存在します。以下の3つのタイプを見極めてください。
- 「門番」タイプ(ベテラン・秘書など) 上司のスケジュールや機嫌を完全に把握している人。この人に嫌われると、提案書は上司の机に届きません。
- 「ご意見番」タイプ(現場の古参社員) 役職はなくても、部長が「あいつはどう言ってる?」と必ず意見を求める人。現場の信頼を一身に背負っているため、この人の反対は致命傷になります。
- 「情報のハブ」タイプ(他部署と交流が広い若手・中堅) 「あそこの部署はいまトラブルを抱えているよ」といった裏事情を教えてくれる人。
キーマンの見分け方チェックリスト
- [ ] 最終決裁者が「アイコンタクト」や「発言を求める」相手は誰か?
- [ ] 自分の上司が、決裁の前に「念のため確認しておこう」と言う相手は誰か?
- [ ] その人が「NO」と言ったとき、プロジェクトが止まった前例はないか?
この**「影の支配者」**を特定し、彼らに先に敬意を払う(相談する)だけで、根回しの成功率は8割を超えます。
ワーママこそ「根回し」で業務の効率化を!
時間が限られているワーママにとって、根回しは**「自分と家族の時間を死守するためのディフェンス・スキル」**です。
プチ根回しを習慣化する
まとまった会議をセットするのは時間の無駄。チャットや隙間時間を使った「小出し」が基本です。
- Slack/Teamsの活用: 「来週の資料のラフです。方向性合っていますか?」と、完成前に1対1で送る。
- 「ついで」の口頭確認: 給湯室や移動中に、気負った様子は出さずに「先日の件、おかげさまで進んでます」と一言かける。

「自分の不在」を前提としたリスク管理
ワーママの最大の敵は「突発的な休み」です。
- 「手の内」を公開: 「急に動けなくなった時のために共有しておきますね」という大義名分で、事前に周囲に背景を話しておく。
- メリット: 自分が不在でも、周囲が「彼女ならこう判断する」と動いてくれる。これこそ究極の根回しです。
会議をスムーズに終わらせる手法
定時退勤の天敵は、着地点の見えない会議です。
- 前日前までには握る: キーマンに「当日はこの着地点で合意を取りたいのですが、ご協力いただけますか?」と個別に着地点を握っておく。
- 言い方のコツ: 「申し訳ありませんが、子どものお迎えのため、当日は論点を絞って進めたいんです」と、状況を正直に伝え**「プロ意識としての効率化」**に変換した上で、理解を得ましょう。
それでも「育児で時間が限られているのに、根回しなんてしている暇はない、、、」
そう思うかもしれません。しかし、現実は逆です。時間が限られているワーママこそ、根回しをしないと仕事が回らなくなります。
失敗しないための「根回しチェックリスト」
これから根回しを始める際は、以下の項目をセルフチェックしてみてください。
| チェック項目 | 注意すべき点 |
| キーマンは誰か? | 決定権者だけでなく、反対しそうな人も含む |
| 相手のメリットは何か? | この案を通すことで相手にどんな得があるか |
| 相手の懸念は何か? | 何が不安で反対しそうか |
| タイミングは適切か? | 相手の繁忙期や心理状態を考慮したか |
| 関係性はどうか? | 日頃から相手を助けているか |
おわりに:根回しは「誠実さ」の表れである
「根回し」という言葉の裏にあるのは、ずる賢さではありません。それは、**「関わるすべての人への敬意」**です。
会議の席でいきなり反対され、恥をかかされる人を減らすこと。
現場が混乱しないよう、あらかじめ道筋を整えること。
自分の不在でチームが困らないよう、情報を共有しておくこと。
これらはすべて、仕事に対する、そして仲間に対する誠実さそのものです。
あなたが今、根回しを考え「大変だ」「面倒だ」と感じているなら、それはあなたが**「組織を動かす、本物のリーダーシップ」**を身につけようとしている証拠です。その一歩は、決して無駄にはなりません。
まずは、「ちょっとお時間よろしいですか?」と声をかけるところから始めてみてください。
その一言が、あなたの仕事を劇的に楽にしてくれるはずです。
